循環器内科のイメージ

現在、動物も人と同様に高齢化が進んでいます。これは獣医療が発展したこともその要因でしょう。一方、寿命が延びたことに伴って、心臓疾患も増加しています。心臓疾患は腫瘍(がん)や腎臓疾患とならんで「三大疾病」と呼ばれ、命にかかわるものです。

当院の循環器内科は、循環器に特化した検査を行い、より専門性の高い、最新の知見に基づいた適切な診療を目指しています。心臓疾患は初期には症状が現れにくいことも多く、年齢とともに悪化し、ご家族が気付いた時には進行していることも少なくありません。少しでもいつもと違う感じがしたら、受診することをお勧めします。また定期的な健康診断も早期発見、早期治療に繋がります。

以下のような症状がみられましたら、循環器内科をご受診ください

  • 最近、咳が多い
  • 呼吸が荒い
  • 疲れやすくなった
  • 散歩中に立ち止まることがしばしばある
  • 苦しそうにしている
  • 運動を嫌がる
  • ふらつくことがある
  • 失神したことがある
  • お腹が張ってきた
  • 検診時に心雑音を指摘されたことがある
  • その他、心臓病の不安がある など

循環器内科の診療について

当院では、以下のような流れで診療を行ってまいります。

問診

まずはしっかりとした問診を行います。普段の様子や症状を確認させていただくことにより、不必要な検査をせずに済む場合もあり、少しでも動物の負担を軽減することに繋がります。

ご来院に際しては、できる範囲内で結構ですので、いつからどのような症状が出ているのかメモしたものを持ってきていただいたり、気になる様子をスマホなどの動画で撮影して持ってきていただいたり、また他院での検査結果データがあればご持参いただくなどすると、検査の重複や時間、費用の削減をすることができる場合があります。

加えて、親や兄弟の病気があったかなどもお伺いします。こちらもわかる範囲で結構ですので、お教えください。様々なことを伺ったうえで、総合的に考慮し、病気の有無や必要な検査などを判断していきます。

検査

身体検査

心臓の雑音などをチェックする聴診や皮膚の状態などをみる視診、痛がる部分がないかなどを調べる触診といった身体検査を行い、全身状態を把握します。その他の各種検査行う前に丁寧に身体検査をすることで、可能性のある病気を絞り込んだり、緊急性の有無など調べたりします。

血圧検査

心臓疾患などによる血圧の変化がないかどうかをチェックします。動物の血圧は四肢や尻尾で測定します。

血液検査

心臓など循環器の治療をしていく上で必要な、その他の臓器の状態を調べます。また心臓バイオマーカーで、心臓疾患の疑いや重症度をある程度調べることも可能です。

レントゲン検査

心臓の形や大きさ、肺や血管の状態を調べ、心臓が大きくなっていないかどうか(心拡大の有無)、肺が白っぽくなっていないかどうか(肺水腫などの有無)を診断します。

心臓エコー検査

超音波検査機器を用いて、心臓の構造や大きさ、血流をチェックし、異常がないかどうか調べます。心臓の機能を把握できる大切な検査で、心臓病がある場合のタイプ、重症度、治療効果などを確認します。犬で一般的な僧帽弁閉鎖不全症、猫の肥大型心筋症などは、この検査で診断を付けることが可能になります。

心電図検査

心電図の波形をみることで、不整脈や心臓の拡大による心臓への負荷、心臓や他の疾患による血管への負荷をチェックできます。また24時間装着のホルター心電図を用いれば、日常的な不整脈を診断することもできます。

検査結果と治療方針のご説明

検査の結果については、十分な時間をとって詳しくご説明いたします。心臓の病気があった場合、長く付き合っていかなければならない病気であることが多く、検査結果に基づいた治療方針についても、飼い主様と十分にお話しし、ご納得をいただいた上で治療を行っていきます。心臓の外科的手術やペースメーカーが必要となった場合は、より高度な環境のある病院をご紹介いたします。

定期検診の実施

最初の診断で治療の必要がないとなった場合でも、経過観察が必要であったり、時間の経過とともに悪化するものであったりすることもあります。また治療を開始した場合は、治療の効果が十分に得られているか、不足がないかを確認する必要があります。従って、当院では定期的な検診をおすすめしております。

健康診断のページ

代表的な循環器の疾患

僧帽弁閉鎖不全症

中齢期以降の小型犬(チワワ、ポメラニアン、トイプードル、キャバリア、パピヨン、マルチーズなど)によくみられる病気です。僧帽弁とは心臓の左側にある2つの部屋を隔てる弁で、これが加齢やその他の要因で、しっかり閉じなくなることで血液が逆流してしまうのが僧帽弁閉鎖不全症です。

症状としては、初期には心臓の雑音くらいですが、次第に疲れやすくなり、運動ができなくなったり、咳がでたりします。逆流の量が多くなると、心臓が大きくなる、肺に水が溜まって(肺水腫)呼吸困難になるなどします。心雑音が聞こえた場合、病期の把握や治療の必要性の検討のため主にレントゲン検査や超音波検査を行っていきます。

治療に関しては重症度に応じて検討します。薬で完治する病気ではありませんが、薬によって進行を遅らせ、肺に水が溜まって苦しくならないよう、量や種類を調整しながら付き合っていくことになります。場合によっては外科的な手術を行うこともあります。その際は心臓外科の専門病院をご紹介いたします。

肥大型心筋症

心臓の筋肉が変性してしまう病気を心筋症と言います。猫では、心臓の筋肉が厚くなって肥大する肥大型心筋症がよくみられます。心筋が厚くなると、心臓内部の空間(心室)が狭くなってしまうため、血液の流れが悪くなって肺や胸に水が溜まってしまいます。すると「うっ血性心不全」を引き起こし、苦しくなって元気がなくなったり、咳が出たり、さらには呼吸困難、失神などの症状が出る場合もあります。

また心室が狭くなると、血流が滞って血がよどんでしまうため、血のかたまり(血栓)ができてしまうことがあります。この血栓が心臓から流れ出て、血管に詰まってしまうことによって、「大動脈血栓塞栓症」が引き起こされることもあります。血栓が詰まる場所は様々ですが、後ろ足であることが多く、急に後ろ足が麻痺して動かなくなった場合、心臓の病気が原因であることが考えられます。

疑われる症状がある、家族猫に同じ病気があった、などの場合に、主にレントゲン検査と心臓超音波検査を実施し、診断していきます。また血圧測定、血液検査などで他の病気である可能性がないかどうかもチェックします。治療は基本的に薬による内科的治療になります。ただし薬で完治する病気ではないので、症状を和らげ、うっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症などを予防していく治療となります。

心室中隔欠損症

心室中隔欠損症は先天性の疾患で、犬にも猫にもあるものです。胎児期や出生間もないころは、心臓の左心室と右心室との間にある心室中隔に欠損があり、穴が開いている状態ですが、成長するに従って穴はふさがっていきます。しかし、生まれた後も穴が開いたままになっている状態が心室中隔欠損症です。

右心室と左心室の血が混ざり、心臓や肺に障害を起こして様々な症状を表します。欠損している部分が小さい場合は無症状のこともあり、そのまま生涯を全うできることもありますが、欠損部分が大きい場合には、疲れやすい、咳が出る、さらには呼吸困難からチアノーゼを起こすこともあります。欠損部位が大きいと心不全に至り、欠損部分を通じて左心室から右心室へ血液が流れ込んで肺に大きな負担がかかって、肺高血圧症を発症してしまう場合もあります。重篤化するとアイゼンメンジャー症候群に陥り、命に関わります。

先天性の病気のため予防方法はなく、早期発見、早期治療が大切になります。ただし病気の進行は止めることができず、薬による内科的な治療で症状を抑えるものになります。使用する薬としては強心剤や血管拡張剤、利尿薬などがあります。治癒を目指すためには外科的手術で穴をふさぐ必要があります。ただし猫の場合は体格が小さいため、外科的治療は一般的ではありません。